14
3月
2014

VA学科卒業プロジェクト作品展 総評 冨井大裕氏より

3月2日までの4日間、東京芸術劇場にてビジュアル・アーツ学科卒業プロジェクト作品展を開催いたしました。足をお運びくださった皆様、誠にありがとうございました。

展覧会初日、アーティストの冨井大裕氏による講評会が行なわれました。冨井さんは、現4年生にとっては1年時の基礎の授業を受け持っていただいた先生でもあります。「君覚えてるよ」「本当ですか」という和やかな会話もまじえつつ、一人一人の作品に対し「次もしまた同じ作品を展示をするなら」という一貫した視点からの冨井先生の的確明確なアドバイスに各々真剣に聞き入りました。終止程よい緊張感のある気持ちのよい講評会は、当初の予定を大幅に越えて3時間半に及びました。後日、講評会を終えての総評をいただきましたので講評会の写真とともに掲載いたします。冨井大裕先生、ありがとうございました。

 

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玉川大学芸術学部ビジュアル・アーツ学科卒業プロジェクト講評を終えて

玉川大学ビジュアル・アーツ学科の講評を担当したのは5回目である。過去の4回は2010年。対象学生は今年3月卒業の4年生。つまり、私は大学生活の最初と最後の講評をすることになったのだが、これはとても光栄なことであり、且つとても責任の重い役割であったことを先に述べておきたい。
さて、卒業制作の講評を終えての所感であるが、全体の印象は、制作の動機と作品の内容を合わせようとして、逆に失敗しているケースが多かった。もっと言うと、「作品というもの」を信用していない人が多かった。信用しなかった結果、作品の本当の持ち味を活かしきれなかった人が多かったということである。
今回の講評に限ったことではないが、講評で学生から多く聞かれる言葉として、「◯◯を表現したかった」「◯◯を表した」というものがある。これは、何かを表現しようと大学に入学した者としては当然のことであり、健全なことでもあるが、真剣な表現の現場においてそのような言動は許されない。表現とは外に結果を表すことであり、動機を説明することではない。動機は結果から自然に滲んでこなければならないのである。講評で見た作品の大半は、仕上げることで手一杯で、実際の作品に客観的な視点を入れる(これは作品の展示方法に直結する)作業を行っていないように見受けられた。よく映画やドラマなどで、〆切の朝ギリギリに何かが完成するというシーンがあるが、あれは実際に何かをつくる前段階で徹底的に検証を行い、その検証作業の結果、制作がギリギリになっているというもので、今回(の大半)のケースとは違う。「ものが違う」というよりは「ことが違う」。
学生諸君は、恐らく「作る」という作業のことを、「(1)動機を定める(2)その再現を目指して方法やモチーフを探る(3)方法やモチーフに従って実際にかたちに仕上げる」という風に考えていると思うが、それは思い込みである。本来、(3)までは表現の準備作業であり、「作る」という作業はここからやっと始まる。作るとは、「手、目、頭、作者の立っている場所の過去、現在、未来」の全てを等価に扱った上で、現在、何をするべきかを決断し、実践する行為である。◯◯をすれば何とかなるという安直なものではない。手で作ったものを目で見て、どのように見えているか判断し、そのものに込められている(込められてしまった)作者のこれまでを考えた上で、これからの為に現在、表現するべきものとして、再度、手と目を駆使して仕上げ直す。ここまでが作るという行為の基本動作である。
講評に話を戻す。ジャンルに関係なく、真っ当な切り口で内容について突っ込むことのできた作品の多くは、初期衝動と作品のアウトプットのバランスが良好なものであった。これらは、二つの傾向に分けることができる。(1)初期衝動の内容が非常に単純であったが故に、幸運にも最終的に出来上がったものの面白さを初期衝動が疎外していない。(2)実際に、意識的にバランスをとっている。(1)は展示作品全体から割と散見することができた。(2)は数点。少なく聞こえるかもしれないが、なかなかの成果である。また、好印象の作品の中には、余りに何も考えなかったが故に上手くいってしまったものも含まれており、作者のこれからの人生に何が残ったのだろうかという些か余計な不安もあった(その意味では初期衝動が強すぎた作品が駄目であるということでは断じてない)。
しつこいが、今一度気になったことを述べて終わりにしたい。講評で話した人のほとんどが自作を使いこなしていなかった。これから社会に出て行く中で、頼りになるのは自分自身である。これは自分を過信しろとか突っ張っていきろとかいうことではない。未来を見る前に、現在の自分の装備を洗い直し、使いこなしてみることも重要だと思う。そこから、思い込みではない自分の本当の未来が見えることも結構ある。

2014年3月11日 冨井大裕

追記:今後の展開が気になった作品は以下の通り。加賀美勝「イヌビエの道」、豊田和希「サイレント」、飯塚茜「マインド#2」、磯長美波「So Many Men, So Many Minds.〈人の数だけ心は違う〉」、市川由花子「being」、松井香保里「目を◯◯う」、飯田梓「レシート・フェイス」、板東文「ayapegwoman」
*あくまで「今後の展開が気になった」作品です。良いと思ったから挙げていますが、良い作品はこの限りではありません。研究論文の方は論文全体を読めていないので、なんとも言えませんが、是非、続けて頂きたい。

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